猫の腎臓病 特に慢性腎臓病について
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高齢の猫で多く見られる慢性腎臓病(腎不全とも呼ばれます)ですが、病気が進行してからでないと症状が現れないため、一緒に生活していてもなかなか気付かないケースが多いのが特徴です。今回は、そんな慢性腎臓病についての解説と治療法についてまとめてみたいと思います。
「イラストで見る猫の病気」講談社より引用
【慢性腎臓病】
まず、慢性腎臓病の症状から見ていきたいと思いますが、症状が出るときには、腎臓はどのくらい機能が低下しているのでしょうか?
一般に腎臓の機能の4分の3を失った時に初めて症状が現れると言われています。つまり、症状が出ている時点で、腎臓の機能が残り25%以下になっていることを意味します。
これらの機能低下は、急激に起こる急性腎不全と、数か月から数年単位で進行する慢性腎不全に分けられますが、今回のコラムでは、多く見られる慢性腎不全に焦点を当てていきたいと思います。
慢性腎不全は、さまざまな原因で腎臓のネフロンと呼ばれる部分が障害を受け、機能を徐々に失っていくことで起こります。この機能の喪失は、不可逆的でかつ進行性ですので、失われた腎機能の回復は不可能と考えられています。ですので、慢性腎不全の進行をいかに軽減し、生活の質を落とさないよういするかが、治療の主なポイントとなります。
慢性腎不全の病期は、第I期から第IV期に分けられ、それぞれ症状が異なります。
病気分類 | 血清クレアチニン濃度 | 主な症状 |
I期 | 1.6以下 | 無症状 腎臓の機能が50%以上残存している |
II期 | 1.6-2.8 |
水を多く飲み、尿量が多い 体重低下 |
III期 | 2.8-5.0 |
食欲低下 貧血、脱水 玲かな体重低下 |
IV期 | 5.0以上 |
食欲不振、嘔吐、下痢などの消化器症状 けいれんなどの神経症状 重度な貧血と脱水 |
慢性腎不全は不可逆的で進行性の疾患のため、早期に診断し、治療に入ることが重要です。
【慢性腎不全の診断について】
慢性腎不全の診断は、いくつかの検査を組み合わせることで診断を行います。
○ 問診:水を飲む量の変化、おしっこの量の変化、脱水の状況を確認します。また、遺伝的な素因や身体検査、過去の病歴、感染症の有無についても確認します。
○ 血液検査:貧血、脱水、腎臓の数値(BUN、Cre、カルシウム、リン、電解質など)を確認します。
○ 尿検査:尿の濃さ(比重)、尿中タンパク量、尿中に含まれる物質(尿沈渣)を確認します。
○ 画像診断:レントゲン検査や超音波検査で腎臓の大きさや内部構造、血流の確認を行います。原因によっては尿路造影検査を行います。
○ 血圧:腎疾患に関連して血圧の上昇が見られます。高血圧の程度を調べます。
その他、腎臓の病気以外の疾患を否定する必要もあるので、全身しっかり検査する必要があります。
【慢性腎不全の治療について】
治療法は、原因によって変わってきますが、以下のように治療を行います。
○ 脱水に対する治療:脱水は慢性腎不全を悪化させる最大の要因です。
・ 水分摂取量を増やす工夫:水飲み場を増やす、好きな場所の水を飲ませる、食事に水分量の多いものを選択するなど。
・ 定期的に皮下あるいは静脈点滴を行う。状況によりどちらがよいか選択する。
○ 高血圧に対する治療:高血圧は、慢性腎不全を悪化させる大きな要因の一つです。血圧を下げる薬を飲むことで腎臓を保護します。
・ 血圧降下剤の内服:収縮期血圧を160mmHg以下にすることを目標とする。(Caチャネル拮抗薬、ACE阻害薬)
・ 食事中のナトリウムの制限:できる範囲でナトリウム制限食に切り替える。
○ 食事の管理:食事療法は、多くの研究で腎臓保護作用が報告されています。体への負担もないため、積極的に行うべき治療です。
・ 体重の管理:慢性腎不全では、体重減少がみられるため、適切な栄養素とカロリーを摂取させます。
・ 栄養成分の制限:適切なたんぱく質やリン(下記参照)を制限します。必要以上の制限はよくないです。
・ 様々なメーカーから腎臓に配慮したフードが販売されています。好みに合わせて食べ比べてみて、食べが良いものを選ぶとよいでしょう。フードの変更は、少しずつ行うとうまくいくことが多いでしょう。
○ リンの制限:食事中のリンの制限をすることで、腎臓病に関連した病気の進行を抑制できる可能性があります。
・ リンの吸着剤として、いくつかのメーカーよりサプリメントが販売されています。嗜好性が高く、副作用がなく、食事と一緒にとれるものが使いやすいです。
○ 低カリウムに対する治療:腎臓からのカリウムの喪失と食事からのカリウム摂取量の減少により起こります。
・ 経口カリウム剤:食事に混ぜるタイプが使いやすいです。ただし、定期的に血液検査で血中カリウム濃度を測定しながら投与します。
○ 貧血に対する治療:腎臓病の進行により、腎臓から出る造血ホルモンが分泌されなくなり、貧血が起こります。ある程度の貧血が認められた場合、造血ホルモンの投与を行います。
・ 造血ホルモンの投与:以前は週に3回、複数週にわたっての注射が必要でしたが、現在はより効果の高い、週に1回の注射を計3回行う治療が選択できるようになりました。
○ その他の症状に対する治療
・ 消化器症状:吐き気や下痢に対し、症状に応じた治療を行います。
・ けいれん:けいれん止めの治療を行います。また、原因となるアンモニアの排せつを促進させます。
・ 尿毒症症状:尿毒症物質を吸着する経口吸着炭を内服させます。いくつかのしゅるいがあるので、飲みやすさを見て投与します。
○ 新しい治療法
・ ラプロス(東レ):腎臓の線維化を抑制する働きがあります。上記の第II期、第III期での投薬に効果があります。
○ その他の治療
・ 血液透析:当院では実施できません。ご希望の場合は、可能病院をご紹介いたします。
・ 腹膜透析:透析液を腹腔内に注入し、一定時間後回収します。入院での治療になります。
最後に
おしっこの量が増えたり、飲み水の量の減りが早かったり、一緒に生活していてもなかなか気付かないものです。また、変化があるとしても徐々に変わっていくため、余計気付きにくいのが実際です。病気は早期発見・早期治療が基本。一年に一回、健康診断をすることで腎臓の疾患の多くを見つけることができます。健康で長生きするために、定期的な健康診断をおすすめしています。
腎臓の病気についてお悩みの方のセカンドオピニオンも行っています。治療法の選択や投薬の種類などご相談がありましたらご来院ください。