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皮膚炎が起こると、赤み、腫れ、かさぶた、脱毛など、さまざまな病変がみられます。細菌感染による膿皮症やアレルギー性皮膚炎など、比較的よくみられる疾患も多いため、まず皮膚炎として治療を開始することがあります。
しかし、治療を行っているにもかかわらず改善しない、あるいは徐々に大きくなる「できもの」の場合には、皮膚炎以外の原因を考える必要があります。特に皮膚腫瘍には、外見だけでは炎症と区別しにくいものもあります。
今回は、1歳の犬の治りにくい皮膚病変に対して細胞診検査を行い、最終的に皮膚組織球腫と診断した症例をご紹介します。
1歳になったばかりのゴールデン・レトリーバーが、左腰部にできた皮膚炎がなかなか治らないとのことで来院しました。
これまで他院で膿皮症と診断され、治療を受けていましたが、十分な改善がみられず、病変が徐々に拡大してきたことから、詳しい検査を希望されました。
身体検査では、左腰部に直径約10mmの赤く腫れた結節性病変が確認されました。
若齢であることから感染性皮膚炎なども考えられましたが、通常の皮膚炎治療に反応せず拡大しているという経過から、単純な皮膚炎だけでは説明できない問題であると考えました。
皮膚病変の性状と経過を確認したうえで、FNA(細針吸引生検)による細胞診検査を実施しました。
採取した細胞を顕微鏡で観察したところ、顆粒を明らかに持たない独立円型の細胞が多数認められました。これらの細胞には明瞭な核小体が観察され、少数ながら好酸球も認められました。
この細胞像から、単なる炎症性病変ではなく、腫瘍性病変の可能性が高いと判断しました。
鑑別診断として皮膚組織球腫、皮膚組織球肉腫、肥満細胞腫などを考え、それぞれの可能性について飼い主様に説明しました。

写真:皮膚にできた腫瘤の病理組織写真(弱拡大)
FNAによる細胞診では、腫瘍の大まかな種類を推定することはできますが、病変全体の構造や細胞の増殖様式、周囲組織への浸潤の有無などを十分に評価するには、摘出後の病理組織検査が必要となります。
今回は病変が比較的小さい段階であったこと、今後の経過を明らかにするために診断を確実にする必要があったこと、飼い主様ができるだけ早期の切除を希望されたことから、外科的切除を行う方針としました。
なお、細胞診で考えられた肥満細胞腫の中には、細胞内の顆粒が少なく、細胞診で判別が難しい無顆粒性に近い形態を示すものもあります。そのため、術前から肥満細胞腫を含めた鑑別を意識して治療計画を立てました。
手術に先立ち、全身状態を評価するため、入念な身体検査に加えて血液検査、胸部X線検査、腹部超音波検査を実施しました。
若齢であり全身状態に問題は認められなかったものの、腫瘍性疾患の可能性が高かったため、全身状態を確認したうえで安全に手術を行うことを優先しました。
また、単に病変だけをくり抜くのではなく、細胞診で鑑別に挙がった腫瘍の性質も考慮し、病変周囲に十分な余裕を持たせて切除する計画としました。
全身麻酔下で、左腰部の皮膚病変を周囲の正常組織を含めてやや大きめに切除しました。
摘出した組織は病理組織検査へ提出し、腫瘍の種類と切除状態を詳しく評価しました。
病理組織検査の結果、今回の病変は皮膚組織球腫と診断されました。
皮膚組織球腫は犬で比較的よくみられる良性腫瘍で、特に若齢犬に発生することが多いとされています。多くは自然退縮する傾向がありますが、個々の病変については他の腫瘍との鑑別が重要になる疾患です。

写真:皮膚にできた腫瘤の病理組織写真(強拡大)
手術後の経過は良好で、切除部位の傷も順調に治癒し一週間後に抜糸を行いました。

写真:抜糸後の皮膚の状態。大きく切除行ったがきれいに癒合した
その後も全身状態に問題は起こらず、元気に生活することができています。
今回、なかなか治らない皮膚炎といわれてから時間の経過はありましたが、病変が小さい段階で検査と切除を行うことができ、病理組織検査によって最終的な診断を確定することができました。
今回の症例で特に重要だったのは、年齢だけで判断せず、治療に反応しない皮膚病変の経過から腫瘍を疑い、FNAによる細胞診を実施し、治療につなげたことです。
皮膚組織球腫は若齢犬に多い腫瘍として知られており、平均発生年齢は若く、多くは良性の経過をとります。一方で、外見だけでは感染性皮膚炎や他の腫瘍と区別が難しい場合があります。
また、今回の細胞診では無顆粒性の円形細胞が主体であり、また好酸球も散見されたことから皮膚組織球腫だけでなく、肥満細胞腫なども鑑別に含める必要がありました。肥満細胞腫は犬で頻度の高い皮膚腫瘍の一つで、細胞診では特徴的な顆粒を持つ肥満細胞が確認されることが多い一方、顆粒が目立たない場合には診断が難しくなることがあります。
そのため本症例では、細胞診の段階で皮膚組織球腫と限定せず、より注意が必要な腫瘍の可能性も考慮して切除範囲を設定しました。最終的には病理組織検査によって皮膚組織球腫と確定し、結果として適切に撮り切ることができました。
皮膚の「赤いできもの」「治らないかさぶた」「なかなか改善しない皮膚炎」は、必ずしも腫瘍とは限りません。しかし、治療を続けても改善しない、徐々に大きくなる、形や色が変化するなどの場合には、細胞診や病理組織検査など詳細な検査によって原因を確認することが有用です。
若い犬や猫であっても腫瘍が発生することはあります。年齢だけで可能性を除外せず、病変の経過と見た目、検査結果を総合して判断することが重要です。
赤みや腫れだけでは、皮膚炎と腫瘍を見た目だけで区別できない場合があります。特に、治療しても改善しない、短期間で大きくなる場合には、細胞診などの検査を検討することがあります。
はい。若齢犬でも皮膚腫瘍が発生することがあります。今回の皮膚組織球腫は、むしろ若い犬で比較的多くみられる腫瘍です。
皮膚組織球腫は一般的に良性の腫瘍で、自然に小さくなることもあります。ただし、見た目だけで他の腫瘍と区別することは難しいため、必要に応じて細胞診や病理組織検査を行うことをおすすめします。
急に大きくなる、出血する、潰れる、色や形が変化する、かゆみが強い、治療してもなかなか治らないといった場合は、一度検査することをおすすめします。小さな病変でも、経過によっては検査が必要になることがあります。
細い針で細胞を採取し、顕微鏡で観察する検査です。腫瘍なのか炎症なのか、またどのような腫瘍が疑われるのかを判断する手がかりになります。ただし、最終的な診断には摘出した組織の病理組織検査が必要になります。