慢性下痢とお尻の腫れを呈した猫―リンパ球性形質細胞性腸炎を伴う直腸破裂に対して結腸ストーマと胃瘻を実施した一例

■はじめに

猫の慢性的な下痢では、寄生虫や細菌などによる感染症、食事の影響、炎症性腸疾患など、さまざまな原因を考える必要があります。一方で、症状が長期間続く場合には、消化管そのものに構造的な異常が起きていないかを確認することも重要です。

今回、慢性的な下痢と食欲不振、お尻周囲の腫れを主訴に来院した猫で、直腸の大きな破裂と、その部位から周囲組織への便の漏出が確認されました。さらに術後に別の直腸断裂が判明したため、通常の修復を断念し、結腸を腹壁へ誘導する結腸ストーマ(人工肛門)の造設と、投薬と栄養管理を目的とした胃瘻チューブの設置を組み合わせた治療を行いました。

■来院経緯

年齢約5歳、体重7.1kgの日本猫が、食欲不振、慢性的な下痢、お尻周囲の腫れを主訴に来院しました。

下痢は以前からかかりつけ動物病院でも治療されていましたが、改善が十分ではないとのことでした。当院で原因を詳しく調べるため検便を行ったところ、軽度の消化不良は認められたものの、寄生虫やそのほか感染症など、慢性的な下痢を直接説明できる所見は確認されませんでした。

一方、お尻周囲の腫れは、尾の付け根あたりまで広く腫れており、触ると強い痛みが生じていました。直腸検査を行ったところ、直腸の9時方向から上方に3時方向にかけて通常とは異なる大きな空間が触知されました。

■血液検査所見

血液検査では、白血球数34,900/μLと著しい白血球増多が認められ、PCVは28%と貧血もみられました。また肝酵素の上昇と、血糖値の軽度上昇も確認されました。

これらの所見を総合すると、直腸周囲で強い慢性的な炎症や二次的な感染が重視すべき問題であると判断しました。

そこで治療もかねて外科的に患部の詳細を確認する方針としました。

■初回手術と診断

試験的な外科処置にて、直腸の約半分が大きく裂けており、その裂け目から便が周囲組織へ漏出していることが確認されました。裂け目は肛門直前まで及んでいる部分もありました。

このことから、直腸破裂(直腸穿孔)に伴う周囲組織への糞便の漏出と判断しました。

また、部分的に切除した腸組織を病理組織検査に提出したところ、リンパ球性・形質細胞性腸炎と診断されました。

写真:粘膜固有層の間質に形質細胞が多数浸潤している。(猫の慢性腸症では、リンパ球や形質細胞を主体とする炎症がみられることがあります。ただし、炎症性腸疾患と低悪性度腸管リンパ腫では臨床所見や病理組織像が重なる場合があり、総合的な判断が重要になります。)

まず、漏出した便を可能な限り除去し、汚染された周囲組織を十分に洗浄し、感染組織の除去を行いました。

直腸の損傷範囲が非常に大きく、単純な縫合による修復は困難と判断し、正常な直腸の部分を肛門側へ引き出して接続するプルスルー法を選択しました。

初回手術では、損傷した直腸の修復を上記の通り行い、排液ドレナージを設置しました。

■手術内容と2回目の手術

数日間手術部位は安定しており、排便も少量ずつ認められました。術後4日目に、ドレーンから排出される漿液中に多数の細菌が確認されるようになりました。慎重に直腸検査を実施したところ、最初に修復した場所とは別の部位(6時から下に8時方向)にも直腸の断裂が確認されました。

写真:漿液に含まれていた細菌の培養を実施した結果、複数の薬剤耐性菌が検出された。

これまでの複数箇所に及ぶ直腸損傷のため、直腸を再利用して正常な排便経路を維持することは困難と判断し、結腸の一部を左側腹壁へ誘導し人工肛門として利用する消化管ストーマ(結腸ストーマ)を造設する方針にしました。

また、本症例では術前から食欲不振が続いていました。もともと7.1kgと肥満傾向であり、猫では食欲不振と急速な体重減少が続くと肝リピドーシスを発症するリスクがあるため、栄養管理も治療上の重要な課題でした。また、経口投薬を強く拒む性格であったことから、同時に胃瘻チューブを設置しました。これにより、液状フードを直接胃へ投与し、必要な薬剤も確実に投与できるようにしました。胃瘻は、十分な経口摂取が難しい猫に対する長期的な栄養管理の選択肢の一つです。

患部の細菌培養検査では、MRSAを含む複数の多剤耐性菌が確認されたため、感受性試験の結果に基づいて抗菌薬を選択した。

■ストーマバッグの固定

動物は体表が毛で覆われているため、バッグの固定に苦難します。横浜旭どうぶつ医療センターでは、患部をしっかり剃毛し清潔に洗浄したのち以下のような方法で固定しています。

写真:造設した人工肛門に小児用ストーマバッグを貼り付けているところ。漏れにくくするよう皮膚に下地用フィルムシールを貼り、その上におなかの凹凸に合わせてカットしたストーマバッグ、さらにその上にずれ防止用のスポーツ用フィルムで固定。すべて人用を転用した。

写真:設置したストーマバッグと胃瘻チューブが干渉しないように、そしてずれないように紙おむつと腹巻を利用して固定することで猫自身の動きが制限されないよう工夫した。

■経過

術後は徐々に状態が安定し、人工肛門からの排泄も確認できました。胃瘻から液状のフードを継続して投与することで栄養状態を維持しながら、少しずつ自発的な食欲も回復していきました。

写真:体から出ているチューブが胃瘻チューブ。状態も安定し、食欲が出てきたため胃瘻チューブの抜去を行うことにした。

一時は体重が5.15kgまで減少しましたが、術後120日には7.0kgまで回復し、食事の100%を自力で摂取できる状態となりました。必要としていた内服薬も徐々に減らすことができ、最終的にはすべて中止できたため、胃瘻チューブは不要と判断し、術後120日目に抜去しました。

その後も良好な経過をたどり、術後600日以上が経過した現在も下痢は認められず、食欲も旺盛です。現在の体重は9.85kgまで増加しているため、今度は健康維持のための減量を指導しながら経過を観察しています。

写真:術後600日の様子。食欲がすごすぎてかなりのぽっちゃり体型に。性格も丸くなり、リラックスしてブラッシング中。

■考察

慢性下痢の猫では、検便で感染症が確認されない場合でも、炎症性腸疾患、食事反応性腸症、腫瘍性疾患などを含めて原因を再評価する必要があります。

一方、本症例で認められた直腸破裂については、病理検査で確認されたリンパ球性・形質細胞性腸炎が直接の原因であったと断定することはできませんが、慢性的な腸管炎症が存在する中で、重度の直腸損傷と糞便性汚染が生じ、その後には別部位の断裂も確認されるという非常に複雑な経過をたどりました。

また、肥満傾向の猫で食欲不振が続く場合には、肝リピドーシスを避けるためにも早期の栄養管理が重要です。本症例では、直腸の再建だけに固執せず、確実な排泄経路の確保、多剤耐性菌に対する感染管理、十分な栄養と投薬を可能にする胃瘻を同時に行ったことが、長期的な回復につながったと考えています。

この症例は、慢性的な下痢という一見ありふれた症状の中にも、通常とは異なる重大な病態が隠れている場合があることを示しています。症状だけを個別に評価するのではなく、問診、身体検査、検査結果、経過を一つの情報として統合して考えることが、診断と治療方針の決定には重要です。

横浜旭どうぶつ医療センターでは、難治性疾患に対する高度な外科治療も行っています。なかなか改善のない難治性疾患でお悩みの際はご相談ください。

■よくある質問【FAQ】

Q1.猫の下痢が長く続いています。検便で異常がなくても病気の可能性はありますか?

はい。検便で寄生虫や明らかな感染症が見つからなくても、炎症性腸疾患、食事に関連した腸症、腫瘍性疾患などが隠れている場合があります。症状が長期間続く場合は、血液検査や画像検査、必要に応じてアレルギー検査や病理検査などを組み合わせて原因を調べます。

Q2.猫の「お尻が腫れている」場合、どのような病気が考えられますか?

肛門腺の病気だけでなく、便秘、直腸の炎症、腫瘤、膿瘍、直腸の損傷など、さまざまな原因があります。腫れに加えて、排便異常、下痢、痛み、食欲低下などがある場合は、早めの検査が重要です。

Q3.直腸が破れることはあるのでしょうか?

頻度は高くありませんが、直腸に強い炎症や損傷などが生じた場合、直腸壁が破れて便が周囲の組織へ漏れ出すことがあります。便による汚染から重度の炎症や感染につながる可能性があるため、早急な評価と治療が必要です。

Q4.猫が食べないと、なぜ問題になるのでしょうか?

猫では食欲不振が続くと、体内の脂肪が肝臓に蓄積する「肝リピドーシス」を起こす場合があります。特に肥満傾向の猫では注意が必要で、食べられない状態が続く場合には、早期に栄養管理を検討する必要があります。

Q5.人工肛門になった猫は、その後も生活できますか?

はい。消化管ストーマを造設した場合でも、適切に管理することで日常生活を送れる猫は多いです。ストーマの状態や排泄物を確認しながら、食事や体重、皮膚の状態などを継続的に管理することが大切です