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いつも元気だから大きな病気はないだろうと思っていても、大きな病気が隠れていることがあります。
今回ご紹介するのは、健康診断をきっかけに、症状が現れる前の段階で心臓周囲の腫瘍が見つかった犬の症例です。
心臓腫瘍は犬では比較的まれですが、その発生部位や大きさによっては、心臓や周囲の血管を圧迫したり、心嚢水がたまったりすることで、呼吸困難や失神などの重篤な症状につながる場合があります。心基底部に発生する腫瘍の一つに「大動脈小体腫瘍」があります。これは大動脈小体に由来する腫瘍で、短頭種で比較的多く認められることが知られています。[1,2]
12歳のボストンテリアが、健康状態を確認するため横浜旭どうぶつ医療センターにて「しっかり健診」を受けました。
食欲や元気に問題はなく、一般的な身体検査でも明らかな異常は認められませんでした。また、心臓病でよくみられる心雑音も聴取されませんでした。
しかし、健康診断の一環として実施した胸部レントゲン検査で、心臓が通常より大きく見えることが分かりました。心臓の大きさを評価する指標であるVHSは13.2、心胸比は71.7%でした。

写真:胸部レントゲン画像(著しい心拡大)
症状がないことから経過を見るという選択肢も考えられますが、心拡大の原因を確認する必要があると判断し、追加で心エコー図検査を実施することになりました。
心エコー図検査では、左心房から大動脈周囲にかけて大きな腫瘤が確認され、さらに少量の心嚢水も認められました。

写真:心エコー図検査画像(赤丸を囲った場所に充実性の腫瘤が認められる)
この時点では、心臓腫瘍が疑われるという段階であり、腫瘤の種類を確定することはできませんでした。
より詳細な画像検査によって発生部位や周囲の血管との関係を確認する必要があります。そこで、精密検査を目的として当院と提携のある大学病院である日本大学動物病院の循環器科へ紹介しました。
大学病院では、改めて心エコー図検査を行ったほか、CT検査によって腫瘤の位置や周囲組織との関係を詳しく評価しました。

写真:CT画像(心臓の周囲にモザイク状の大きな腫瘤が認められる)
その結果、心基底部に発生した大動脈小体腫瘍の可能性が高いと診断されました。
さらに、腫瘍の一部が血管へ浸潤していることが確認されました。心基底部腫瘍では、腫瘍そのものによる圧迫だけでなく、主要血管や心臓への影響が問題となる場合があります。
今回の症例では、現時点で明らかな症状がない一方、今後の腫瘍の進行によって循環動態が急激に変化し、失神や突然死につながる可能性も考慮する必要がありまます。
心基底部に位置し、血管への浸潤も認められたことから、外科的に完全切除することは容易ではないと判断されました。
そこで、腫瘍の進行を抑えることを目的として、分子標的薬であるトセラニブによる治療と放射線治療を組み合わせる方針となりました。
犬の心基底部腫瘍では、外科的切除が困難な症例に対して、トセラニブによる治療についても一定の治療効果が報告されています。また、放射線治療については、複数の症例を対象とした報告があり、腫瘍の縮小や臨床症状の改善が認められた症例があります。[3,4,5]
ただし、これらの治療がすべての症例で腫瘍を消失させるわけではなく、腫瘍の位置や大きさ、周囲組織への影響、全身状態などを考慮したうえで治療方法を選択する必要があります。
まず約2か月間、トセラニブの投与を行いました。
その後、大学病院にて放射線治療を計6回実施しました。心臓や大血管に近接する腫瘍であるため、治療に際しては腫瘍へ十分な治療効果を期待しながら、周囲の正常組織への影響にも配慮する必要があります。


CT画像より再構築した3D画像:緑色で示す腫瘤が心臓の周囲を覆っていることがわかる
現在も治療を継続しており、腫瘍の進行や心臓・血管への影響について、当院と大学病院が連携して経過を確認し治療にあたっています。
今回の症例では、幸いにも病気による明らかな症状が現れる前に異常を発見することができ、精密検査によってまれな心臓腫瘍を診断することができました。
今後も定期的な検査を行いながら、病状の変化を早期に把握し、その時点で最適な治療を選択していく予定です。
今回、特に重要だったのは、身体検査では心雑音を含めて明らかな異常がなく、食欲や元気も正常だったにもかかわらず、健康診断の胸部レントゲン検査で心拡大が見つかったことです。
心基底部腫瘍は、ある程度大きくなるまで症状が現れない場合があります。一方で、腫瘍が心臓や主要血管を圧迫・浸潤すると、循環障害や心嚢水などを介して突然状態が悪化する可能性があります。
そのため、症状がない=問題がないと判断せず、画像検査で偶然見つかった小さな変化についても、その原因を確認することが重要です。
また、今回の診断では、レントゲン検査だけで腫瘍の種類を判断するのではなく、心エコーで腫瘤の位置を確認し、さらに大学病院で高解像度のCT検査を行うことで、腫瘍と血管との位置関係や浸潤の程度を評価しました。このように、一つの検査だけで判断せず、それぞれの検査から得られる情報を組み合わせて診断と治療方針を決定することが重要と考えています。
犬の心基底部腫瘍はまれな疾患ですが、特にボストンテリアなどの短頭種では鑑別診断の一つとして考慮する必要があります。
健康診断は、健康を確認するためだけではなく、まだ症状として現れていない異常を見つけ、必要な精密検査や治療につなげるためにも重要です。横浜旭どうぶつ医療センターでは、当院で診断や治療が困難な疾患の場合、複数の大学病院や二次病院と連携し、治療を行うことが可能です。
Q1. 大動脈小体腫瘍とはどのような病気ですか?
心臓の近くにある「大動脈小体」という組織から発生する腫瘍です。心臓の基部にできることが多く、特にボストンテリアなどの短頭種でみられる場合があります。
Q2. 心臓の腫瘍があると、必ず症状が出ますか?
必ずしもそうではありません。腫瘍がある程度大きくなるまで症状が現れない場合もあります。進行すると、咳や呼吸が苦しそう、運動を嫌がる、失神などがみられることがあります。
Q3. 健康診断で心臓の腫瘍を発見できますか?
健康診断の胸部レントゲン検査や心エコー検査などをきっかけに、偶然発見される場合があります。今回の症例でも、症状はありませんでしたが、レントゲン検査で心拡大が見つかったことが精密検査につながりました。
Q4. 大動脈小体腫瘍は手術で治療できますか?
腫瘍の位置や大きさ、周囲の血管への浸潤などによって異なります。心臓や大血管の近くに発生するため、手術が難しいケースもあり、放射線治療や分子標的薬などが選択肢となる場合があります。
Q5. 心臓病の健康診断は何歳から受けたほうがよいですか?
年齢や犬種、既往歴によって適した検査内容は異なります。特に高齢になった犬では、症状がなくても定期的な健康診断を受けることで、病気の早期発見につながる場合があります。横浜旭どうぶつ医療センターでは、年齢や犬種に合わせた健診をご相談いただけます。