耳の長引く掻痒―耳道でマラセチアが増殖していたゴールデン・レトリーバーの一例

■はじめに

犬の外耳炎は、動物病院で比較的よく遭遇する病気の一つです。特に暑く湿度の高い時期には、耳の中の環境が変化し、外耳炎が悪化する場合があります。

外耳炎では、耳の赤み、腫れ、かゆみ、耳垢、においなどがみられますが、こうした症状だけでは「なぜ外耳炎になったのか」までは判断できません。

犬の外耳炎では、細菌だけでなく、マラセチアという酵母様真菌が増殖していることがあります。マラセチアは健康な犬の皮膚や耳にも存在しますが、皮膚の状態やアレルギーなどを背景に増殖すると、外耳炎の原因となる場合があります。

■来院経緯

6歳のゴールデン・レトリーバーが、左耳をずっと気にしているため、横浜旭どうぶつ医療センターを受診しました。

診察では、左耳の外耳道に発赤と腫れが認められ、茶褐色の耳垢が多く付着していました。また、耳からは特徴的なにおいも認められました。

写真:外耳に広がる発赤と汚れの付着

写真:綿棒で採取した耳垢の一部。茶褐色の耳垢が大量に存在していた。

これらの所見から、左耳に外耳炎が起きていることは比較的容易に判断できましたが、外耳炎と分かっただけでは、治療に必要な薬を適切に選ぶことはできません。そこで、耳垢を採取し、顕微鏡による塗抹検査を行いました。

■検査所見

採取した耳垢を顕微鏡で観察したところ、マラセチアが多数確認されました。

写真:大量に存在するピーナツ状の青紫色に染色されたマラセチア菌体

マラセチアは酵母の一種で、犬の皮膚や外耳道にも少数存在することがあります。そのため、マラセチアの検出=病気の原因とはなりません。

今回の症例では、耳の発赤、腫脹、かゆみ、特徴的な耳垢などの臨床症状と、塗抹検査で多数のマラセチアが確認されたこと、反対側の耳道は正常でマラセチアが検出されなかったことを合わせて、マラセチアの増殖が外耳炎に関与していると判断しました。

外耳炎の原因には、細菌、酵母、ミミダニなどの寄生虫、異物などさまざまなものがあり、さらにアレルギーや腫瘍などの皮膚疾患などが背景に存在する場合もあります。そのため、外耳炎では耳の状態を確認するだけでなく、原因の追究を行うことが治療方針を決めるうえで重要となります。

■治療方針

マラセチアは真菌の一種であるため、マラセチアの増殖が主体となっている外耳炎では、抗真菌作用を持つ薬剤を使用することが治療の基本となります。

一方、外耳炎では細菌感染が同時に起きている場合もあり、すべての症例で同じ薬を使用すればよいわけではありません。治療の効果が乏しい場合には、培養や抗生剤感受性試験などを実施することも考慮する必要があります。

マラセチア性外耳炎においては、抗真菌薬を含む局所治療が有効であることから、在宅でも手軽に利用できる点耳薬による治療を第一選択としました。

■治療内容

左耳の耳道の状態を鼓膜まで精査したうえで耳垢の除去、耳道内の洗浄処置を行い、抗真菌薬を含む点耳薬による治療を開始しました。

外耳炎の治療では、薬剤を使用するだけでなく、耳垢や分泌物を適切に除去して薬剤が外耳道に作用しやすい状態にすることも重要です。また、炎症が強い場合には、炎症やかゆみを抑える内服薬を組み合わせることもありますが、本症例では点耳薬のみの治療を行いました。

今回の症例では、治療開始後の経過を確認するため、約2週間後に再診としました。

■経過

約2週間後の再診では、左耳の発赤や腫れ、汚れ、かゆみは大幅に改善し、飼い主様からも耳を気にする様子がなくなったとのことでした。

写真:2週間後の外耳の様子。発赤や汚れは改善していた。

初診時に認められていた症状が改善したことから、今回は、点耳薬に良好に反応したと考えられました。

ただし、マラセチア性外耳炎は、背景にアレルギー性皮膚炎などの基礎疾患が存在する場合、再発を繰り返すことがあります。今後再発する場合には、耳そのものだけでなく、皮膚の状態や基礎疾患についても確認する必要があると思われます。

■考察

外耳炎といっても原因は様々であり、本症例においては耳垢の塗抹検査によって原因菌を確認したことが治療方針を決めるうえで大切なポイントになりました。

外耳炎では、赤みや耳垢、においといった外見上の特徴だけから原因を推測することもできますが、細菌が主体なのか、マラセチアが主体なのか、あるいは両者が関与しているのかによって治療方針は変わります。耳垢塗抹検査は、外耳道から採取した材料を顕微鏡で観察することで、こうした情報を比較的短時間で得られるメリットがあります。

また、繰り返しになりますが、マラセチアは犬の皮膚や耳に常在することがあるため、検出されたことだけで原因と判断するのではなく、臨床症状と菌体数を含めて評価することが重要です。

外耳炎は「耳が汚れているだけ」と思われることもありますが、強いかゆみや痛みを伴うことがあり、慢性化すると治療が難しくなる場合もあります。耳を気にする、耳垢が増えた、耳のにおいが強くなったなどの変化がある場合には、早めに診察を受け、必要に応じて耳垢の検査を行うことが大切です。

■よくある質問【FAQ】

Q1.犬の外耳炎は、どのような症状が出ますか?

耳をかく、頭を振る、耳を気にする、耳が赤くなる、耳垢が増える、耳のにおいが強くなるなどの症状がみられます。痛みのため、耳を触られるのを嫌がる場合もあります。

Q2.マラセチアとは何ですか?

マラセチアは酵母の仲間で、犬の皮膚や耳にも通常から存在しています。普段は問題にならないことも多いですが、皮膚の状態やアレルギーなどを背景に増殖すると、外耳炎の原因となる場合があります。

Q3.外耳炎では、なぜ耳垢を顕微鏡で調べるのですか?

外耳炎の原因によって必要な治療が異なるためです。耳垢を顕微鏡で調べることで、マラセチアや細菌などが増えていないかを確認し、治療薬を選択するための情報を得ることができます。

Q4.マラセチアによる外耳炎には、抗生剤を使えば治りますか?

マラセチアは真菌(酵母)のため、抗生剤だけではマラセチアそのものを治療することはできません。マラセチアの増殖が確認された場合には、抗真菌薬を含む点耳薬などを使用することがあります。

Q5.外耳炎は一度治れば、もう再発しませんか?

一度治っても、再発する場合があります。特にアレルギー性皮膚炎などの基礎疾患がある場合には、耳の炎症だけでなく、その背景にある原因を確認することが重要です。耳を気にする、においがする、耳垢が増えるなどの変化があれば、早めにご相談ください。