鼻と肛門周囲の皮膚炎からウサギ梅毒が疑われた一例

■来院経緯

8ヵ月齢のうさぎが、鼻および肛門周囲の皮膚のただれを主訴に横浜旭どうぶつ医療センターを受診しました。

飼い主様によると、鼻先とかお尻周りにかさぶたのような病変がみられ、徐々に範囲が広がってきたとのことでした。食欲や活動性には大きな異常は認められませんでしたが、病変の改善がみられないため受診されました。

■検査所見・診断

身体検査では、鼻梁部および肛門から陰部にわたる皮膚と粘膜に炎症を伴う痂皮形成を認めました。

病変は発赤を伴い、厚いかさぶた状の変化を示していました。病変の発生部位と特徴的な外観から、ウサギ梅毒が強く疑われました。

ウサギ梅毒はTreponema paraluiscuniculiというスピロヘータの感染によって発症する疾患で、鼻、口唇、眼瞼、外陰部、肛門周囲などの粘膜移行部に特徴的な病変を形成します。

今回の症例では病変の分布と外観が典型的であったことから、臨床的にウサギ梅毒と判断しました。

ウサギ梅毒は人に感染する梅毒とは異なる病原体による疾患です。主に親から子への感染や、繁殖時の接触によって感染すると考えられています。

若齢のうさぎで発症することも多く、本症例の年齢とも一致していました。

■治療方針

ウサギ梅毒では適切な抗菌薬による治療が必要です。

一方で、うさぎでは腸内細菌叢への影響から使用に注意が必要な抗菌薬も多く、犬猫と同じ感覚で薬剤を選択することはできません。

そのため、安全性と有効性を考慮しながら治療薬を選択することが重要です。本症例ではクロラムフェニコールを用いた内科治療を実施しました。

治療開始後、鼻梁部および肛門周囲の炎症は徐々に改善し、痂皮も縮小し、4週間後に元の皮膚の状態へと改善しました。

現在、国内ではクロラムフェニコール製剤の出荷制限が続いており、入手が困難な状況となっています。

横浜旭どうぶつ医療センターでは海外からの輸入ルートを確保しているため、適応症例に対して治療を行うことが可能です。

■経過

治療開始後は病変の改善が認められ、皮膚の状態も良好に回復しました。

食欲や活動性にも問題は認められず、経過は順調です。

■考察

今回の症例で特に重要であったのは、病変の発生部位と外観からウサギ梅毒を早期に疑うことができた点です。

鼻や肛門周囲に形成される痂皮性病変はウサギ梅毒に特徴的な所見であり、適切な診断につながる重要な手掛かりとなります。

また、ウサギ梅毒は一般的な皮膚炎と異なり、ニューキノロン系抗菌薬に反応しません。そのため、他院で皮膚炎として治療されているにもかかわらず改善せず、セカンドオピニオンとして来院されるケースも少なくありません。

さらに、うさぎでは安全に使用できる抗菌薬の選択肢が限られています。不適切な抗菌薬投与によって重度の消化器障害を引き起こす可能性があるため、診断と薬剤選択の両方が重要になります。

ウサギ梅毒は初期には局所的な皮膚病変のみの場合もありますが、重症化すると病変が拡大し、全身状態へ影響を及ぼす可能性があります。そのため、鼻先や肛門周囲にかさぶたやただれがみられた場合には、早期に診察を受けることが重要です。

うさぎの皮膚病変は一見すると単なる皮膚炎に見えることがあります。しかし、その背景に感染症が隠れていることも少なくありません。横浜旭どうぶつ医療センターでは、病変の分布や特徴を丁寧に評価し、うさぎ特有の疾患も考慮しながら診断・治療を行っています。

よくあるご質問【FAQ】

Q1. ウサギ梅毒とはどのような病気ですか?

スピロヘータという細菌の仲間による感染症です。鼻、口元、目の周囲、陰部、肛門周囲などにかさぶたやただれができることがあります。

Q2. ウサギ梅毒は人や他のペットにうつりますか?

人の梅毒とは異なる病原体による疾患であり、人への感染は報告されていません。ただし、うさぎ同士では感染する可能性があります。複数羽飼育されている場合は、注意が必要です。

Q3. うさぎの鼻にかさぶたができたらウサギ梅毒でしょうか?

必ずしもそうとは限りません。外傷、真菌感染、細菌感染などでも似た症状がみられます。正確な診断には動物病院での診察が必要です。

Q4. なぜ一般的な抗生剤で治らないことがあるのですか?

ウサギ梅毒の原因菌には効果が十分でない抗菌薬もあります。また、うさぎでは使用を避けるべき抗菌薬も多いため、適切な薬剤選択が重要です。

Q5. ウサギ梅毒は放置するとどうなりますか?

病変が広がったり、症状が悪化したりする可能性があります。早期診断・早期治療によって良好な経過が期待できるため、気になる症状があれば早めの受診をおすすめします。