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猫の貧血は、出血や溶血、腎疾患など比較的よくみられますが、血液を作る骨髄そのものの異常によって起こることがあります。
特に赤血球だけでなく白血球や血小板も同時に減少している場合は、骨髄疾患を考慮する必要があります。そのような場合には、血液検査だけでは診断できず、骨髄生検が必要になることがあります。
今回は、複数の病院で原因が分からず衰弱してしまった重度な貧血の猫に対し、骨髄生検によって骨髄低形成と診断した症例をご紹介します。
11歳3か月齢の日本猫が、貧血の原因精査と治療を希望され横浜旭どうぶつ医療センターを受診しました。
これまで複数の動物病院で検査を受けていましたが明らかな原因は特定されず、徐々に元気や食欲が低下してきたため、詳しい検査を希望されました。
まず血液検査を実施しました。
通常35%程度が正常である赤血球容積比(PCV)は12%と重度な貧血を認めましたが、貧血を起こすウイルス感染症である猫エイズ(FIV)・猫白血病(FeLV)はいずれも陰性で、また貧血の原因となる溶血を示唆する所見も認めませんでした。
一方で、白血球数は1,600/μL、血小板数は19,000/μLと著しく減少しており、赤血球だけではなく白血球・血小板も含めた三系統の血球減少(汎血球減少)が認められました。血液生化学検査では明らかな異常はありませんでした。
この時点で、赤血球だけが減少する一般的な貧血では説明できず、血液を産生する骨髄自体に異常がある可能性を強く疑いました。
診断を確定するため、鎮静下で上腕骨からジャムシディ骨髄針を用いた骨髄生検を実施しました。

写真:骨髄液を採材するためのジャムシディ針
骨髄生検は比較的侵襲が少なく、術後も歩行などに大きな影響は認められませんでした。
病理検査では、正常であれば豊富に存在する造血細胞に代わり脂肪細胞が多く認められ、赤芽球系・骨髄球系・リンパ球系細胞はいずれも減少していました。

写真:左:骨髄液を採材しているところ 右:採取された骨髄細胞。巨大な細胞が採取されている
これらの所見から骨髄低形成(低形成性骨髄)と診断されました。
骨髄低形成では、免疫介在性の機序が関与する場合があるため、まず標準的な治療を実施する方針としました。
また、重度の貧血による全身状態の悪化を防ぐため、輸血をはじめとする支持療法を並行して行うこととしました。
まず輸血を実施し、ステロイドおよびシクロスポリンによる免疫抑制療法を開始しました。しかし十分な改善が得られなかったため、輸液療法や栄養管理に加え、エリスロポエチン製剤を用いた造血支持療法を継続しました。


写真:当院の輸血猫と血液型が一致したため、採血し輸血を実施 左上:輸血用点滴ライン 右上:輸血用バッグ 下:輸血しているところ
また、今後標準治療への反応が乏しい場合には、当院で実施可能な間葉系幹細胞を用いた再生医療も選択肢の一つとしてご提案できる体制が整っています。当院の再生医療についてはこちらから。
現在も治療は継続中であり、血液検査の改善にはやや波があるものの、貧血や食欲、活動性は回復し、全身状態は来院時と比較して改善しました。
今後も定期的な血液検査を行いながら治療効果を評価し、状態に応じて治療内容を調整していく予定です。
今回の症例で最も重要だったのは、貧血という所見だけではなく、白血球・血小板も同時に減少していたことに着目したことです。
もし赤血球だけの異常として捉えていれば、骨髄疾患の診断には至らなかった可能性があります。本症例では三系統の血球減少という特徴から骨髄異常を疑い、骨髄生検を選択したことで診断へつなぐことができました。
骨髄低形成は比較的まれな疾患ですが、早期に診断し適切な治療を開始することが予後改善につながる可能性があります。一方で、治療に反応しない症例も存在し、その場合には支持療法や新たな治療法の検討が重要になります。
近年では、難治性の骨髄疾患に対して間葉系幹細胞を用いた再生医療の有効性が検討されており、今後の治療選択肢として期待されています。ただし、現時点では十分なエビデンスは限られており、症例ごとの慎重な適応判断が必要です。
当院では、現時点での標準治療に反応しない難治性疾患に対し再生医療という選択肢を提供しています。もう治らないとあきらめてしまう前に、わずかでも可能性を追い求めています。
貧血は一つの病気ではなく、多くの疾患によって起こる症状です。原因によって治療法は大きく異なるため、「なぜ貧血になったのか」を明らかにすることが最も重要です。
出血、溶血、慢性腎臓病、感染症、腫瘍、骨髄疾患などさまざまです。原因によって治療法が異なるため、原因を特定することが重要です。
骨の中にある骨髄を少量採取し、血液を作る細胞の状態を詳しく調べる検査です。通常は鎮静や麻酔下で行われ、日帰りまたは一泊入院での検査になります。
赤血球だけでなく白血球・血小板も同時に減少している場合は、骨髄の働きが低下している可能性があり、追加検査が必要になることがあります。
原因や重症度によって異なります。免疫抑制療法や輸血、造血を促す治療などが行われ、長期的な管理が必要になることがあります。
症例によっては再生医療などが治療の選択肢となる場合があります。ただし、適応や期待できる効果は症例ごとに異なるため、経験のある獣医師と十分に相談することが大切です。