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「熱中症は炎天下の散歩中に起こるもの」と思われがちですが、実際には犬の熱中症の約半数は室内で発症することが報告されています。特に高齢犬では体温調節能力が低下しやすく、エアコンを使用していても室温や湿度、脱水などが重なることで発症することがあります。
また、熱中症は単に体温が高くなる病気ではなく、高体温によって全身の細胞が障害を受け、命に係わる播種性血管内凝固症候群(DIC)や急性腎障害、肝障害、消化器障害、神経障害などへ進行する可能性があるため、迅速な救急治療が必要となります。
今回は、室内で熱中症を発症した高齢犬が早期治療によって良好な経過をたどった症例をご紹介します。
13歳の心臓病を持っているチワワが、呼吸が苦しそう、食欲がないとのことで横浜旭どうぶつ医療センターを受診しました。
飼い主様のお話では、日中は室内で過ごしていたものの、徐々に呼吸が荒くなり、食欲も低下してきたとのことでした。
屋外ではなく室内で症状が出現したため、当初は熱中症とは考えにくい印象もあったようですが、症状の変化に早い段階で気付いて受診していただきました。
身体検査では激しいパンティング(早く浅い呼吸)を認め、舌や口腔粘膜は鮮紅色を呈していました。
直腸温は40℃を超えており、高体温を認めました。血液検査では異常は認められませんでした。
病歴や身体検査所見を総合すると熱中症が最も疑われたため、追加検査よりも救命を優先し、直ちに冷却処置を開始しました。

身体検査所見および発症状況から熱中症と診断しました。
熱中症では、体温が高いことだけが問題ではありません。高体温が持続すると全身の炎症反応が引き起こされ、凝固異常や臓器障害へ進行する危険性があります。
そのため本症例では、「まず体温を安全に下げること」、その後「臓器障害を防ぐこと」の二段階で治療を進めることにしました。
初期治療では、生命を脅かす高体温を速やかに低下させることを最優先にしました。
状況確認後、冷水浴による全身冷却、静脈点滴、ミスト噴霧による気化熱冷却を開始しました。

体温は一時41.2℃まで上昇しましたが、継続的な冷却処置により39.5℃まで低下し、初期の救命処置を終えることができました。
その後は、熱中症で問題となるDICや急性腎障害、消化器障害、神経障害などの合併症を予防・軽減することを目的に集中管理を行う方針としました。熱中症では体温が正常化した後も病態が進行することがあるため、冷却後の管理が非常に重要になります。
血液検査などの各種検査や輸液療法を継続するとともに、吐き気や下痢など消化器症状への治療を実施しました。また、熱中症では脳浮腫や神経障害によってけいれん発作を起こすこともあるため、神経学的状態を慎重にモニタリングしながら管理しました。
以上の処置により体温は平熱まで低下し、翌日には呼吸状態は落ち着き、全身状態も安定していました。
その後食欲も回復し、神経症状や循環障害などの重篤な合併症も認められないことを確認し退院となりました。
現在も後遺症なく、普段どおり元気に生活しています。
今回の症例で最も重要だった点は、飼い主様が初期の異変に気付き、速やかに受診されたことです。
熱中症は時間との勝負であり、発症から治療開始までの時間が短いほど救命率が高くなると考えられています。
また、本症例では高体温の症状を改善するだけではなく、その後に起こるDICや臓器障害を見据えた治療を早期から開始できたことが良好な経過につながったと考えられます。
近年の報告では、犬の熱中症は屋外だけではなく室内でも多く発症していることが報告されています。特に高齢犬や短頭種、肥満傾向の犬、心臓病や呼吸器疾患を持つ犬では注意が必要です。
横浜旭どうぶつ医療センターでは、現在、待合室に熱中症についての掲示や対策グッズの紹介をしており、飼い主様への啓発活動にも取り組んでいます。また、院長が環境省で行った熱中症対策に関する講演も公開していますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。
まだまだ暑い日が続きます。「室内だから安心」と思わず、普段と違う呼吸や元気・食欲の変化がみられた場合には、できるだけ早めにご相談ください。
はい。実際に犬の熱中症は室内で発症するケースも多く報告されています。室温だけでなく湿度や換気、脱水なども影響するため、室内でも注意が必要です。
パンティング(激しい呼吸)、元気消失、食欲不振、よだれ、嘔吐、下痢などがみられます。重症になるとけいれんや意識障害を起こすこともあります。
おすすめできません。涼しい場所へ移動し体を冷やしながら、できるだけ早く動物病院を受診してください。熱中症は短時間で重症化することがあります。
いいえ。熱中症では体温が正常になった後も、血液障害や腎障害、肝障害、神経障害などが進行することがあります。そのため、症状によっては入院管理が必要です。
エアコンによる室温・湿度管理、新鮮な水をいつでも飲める環境づくり、暑い時間帯の散歩を避けることが重要です。高齢犬や肥満犬、短頭種では室内でも体調の変化をこまめに観察しましょう。