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猫は糸や紐などをおもちゃとして口に入れてしまうことがあります。特に、糸の先に縫い針が付いた状態で誤飲すると、単なる異物誤飲とは異なり、針の鋭利な先端によって食道や胃、腸管を傷つけ、穿孔や腹膜炎を起こす危険があります。
縫い針を誤飲した場合、まず重要なのは「どこに針があるのか」を確認することです。位置によっては内視鏡や外科手術による摘出が必要になるケースが多いですが、針が消化管内を安全に移動している場合には、厳重な管理下で経過を観察するケースもあります。
今回は、縫い針を誤飲したものの、最終的に外科手術を行わず幸いにも自然排出に至った猫の症例をご紹介します。
7歳のノルウェージャンフォレストキャットが、糸の付いた縫い針で遊んでいる際に、誤って針ごと飲み込んでしまったとのことで来院されました。
来院までに何度か嘔吐しており、糸は吐き出されていたものの、縫い針は確認できていませんでした。
針が体内に残っている可能性が高く、また鋭利な異物であることから、消化管を損傷している可能性を考えて、まず画像検査による位置確認を行うことにしました。
腹部X線検査を実施したところ、金属製の縫い針が胃内に存在していました。

写真:金属製の針が胃内に存在していることがわかる
この段階で最も重要なのは、胃に針があるという事実に加え、針の位置と形状から、今後どのように移動する可能性があるか、また摘出操作の方法によってどの程度の損傷が生じる可能性があるかを考えます。
縫い針のような鋭利な異物では、催吐によって食道や口腔内を傷つける可能性があります。そのため、本症例では催吐による針の摘出はリスクが高いと判断しました。
また、内視鏡による摘出についても検討しましたが、針は長く、針の向きや把持・回収の過程によっては食道粘膜などを損傷する可能性や最悪の場合、より重篤な食道穿孔やそれに続発する食道狭窄を引き起こしてしまう可能性があります。猫の消化管内異物では内視鏡による摘出が有効な場合が多いですが、針や釣り針など鋭利な異物では、異物の形状と位置を十分に評価したうえで適応を判断する必要があります。
当初は、胃切開による摘出がより安全性の高い方法と考えられる状況でした。そのため、手術によって針を確実に摘出する方法について飼い主様に説明しました。
一方、飼い主様は全身麻酔に対する心配があり、可能であれば自然排出を待ちたいという希望を持たれていました。
そこで、自然排出を選択する場合のリスクについて十分に説明しました。
特に、針が腸管を移動する過程で消化管壁に刺さり、穿孔が発生した場合には重篤な腹膜炎などにつながり、緊急手術が必要になることがあります。実際、犬猫の縫い針誤飲では、消化管穿孔の発生が約2割との報告があります。*1
そのため、単純に便から出るのを待つのではなく、状態が悪化した場合には直ちに外科手術へ移行できる体制を整えたうえで、慎重な観察を行う方針としました。
本症例では、万全な緊急手術の準備を整えた状態で、画像検査や身体状態を確認しながら入院にて経過を観察しました。

写真:針は胃から小腸へと移動した
その後、縫い針は胃から腸管へ移動しました。
腸管内を移動する過程でも、腹痛の悪化や全身状態の変化、消化管穿孔を疑う所見は認められませんでした。

写真:針は小腸から大腸へ移動した
さらに針は大腸まで移動したことが確認され、その後、便とともに自然排出を確認しました。

写真:便と共に排出された針
最終的に外科的な摘出を行うことなく、また大きな合併症も認めることなく異物を体外へ排出することができました。
本症例では、縫い針を飲み込んだという事実だけで手術の要否を決めず、針の位置、移動状況、消化管損傷の有無、全身状態、そして飼い主様の希望を確認しながら治療方針を決定したことが重要な点となります。
縫い針は鋭利であるため、自然排出を待つことには常に消化管穿孔のリスクがあります。一方で、胃内にある針を催吐によって逆行させたり、内視鏡で無理に回収したりすることにも損傷のリスクがあります。
猫の消化管内異物に対する内視鏡治療については、胃や食道に存在する異物を低侵襲に摘出できる有用な方法である一方、異物の種類や形状、位置によって適応が異なります。特に針などの鋭利な異物では、回収時の粘膜損傷を避けるための慎重な操作が必要となります。また針が小さいから大丈夫と判断することもできません。
今回、自然排出という結果になったのは、あくまでこの症例の経過に基づくものです。すべての縫い針が自然に排出されるわけではなく、穿孔や腹膜炎の兆候があれば、速やかな外科的介入が必要になります。
縫い針、釣り針、串などの鋭利な異物を誤飲した可能性がある場合は、自宅で吐かせようとせず、できるだけ早く動物病院で相談することが重要です。
横浜旭どうぶつ医療センターでは、さまざまな異物誤食に対する多くの経験を持っているため、状況にあった提案・治療が可能です。
*1 Pratt, C. L., Reineke, E. L., & Drobatz, K. J. (2014). Sewing needle foreign body ingestion in dogs and cats: 65 cases (2000–2012). Journal of the American Veterinary Medical Association, 245(3), 302-308.
いいえ。縫い針は消化管に刺さり、穿孔や腹膜炎を起こす可能性があります。針の位置や状態を確認したうえで、外科手術・内視鏡などから適切な方法を選択します。
おすすめできません。鋭利な針を吐かせることで、食道や口腔内を傷つける可能性があります。誤飲が疑われる場合は、自宅で催吐せず、早めに動物病院を受診してください。
胃や食道にある異物では内視鏡による摘出が可能な場合があります。ただし、針の向きや刺さり方によっては粘膜を傷つける危険があるため、すべてのケースで内視鏡が適しているわけではありません。
症状がなくても安全とは限りません。針が消化管に刺さっていても初期には明らかな症状が出ない場合があります。画像検査などで位置を確認することが重要です。
いいえ。今回の症例のように、糸が吐き出されて針が胃内に残っていることがあります。針が見つからない場合には、X線検査などで体内に残っていないか確認することをおすすめします。