15歳の柴犬に見つかった脾臓の巨大腫瘤|高齢犬の手術と病理検査

■はじめに

高齢犬では、健康診断で脾臓に腫瘤(しこり)が見つかることがあります。脾臓の腫瘤には、結節性過形成などの良性病変から、血管肉腫をはじめとする悪性腫瘍まで、さまざまな種類があります。画像検査だけで良性・悪性を確実に区別することは難しく、最終的な診断には摘出した組織の病理検査が必要になる場合があります。

■来院経緯

15歳の柴犬が健康診断を目的に来院されました。最近は夜泣きや遠吠えなど、認知機能の低下を疑う行動が見られていましたが、日常生活はおおむね変わらず送れていました。

一方で、以前と比べて元気がなく、食欲も低下しているとのことでした。高齢犬では、こうした変化を加齢に伴うものと考えてしまうことがあります。しかし、食欲や活動性の低下には、貧血や内臓疾患など、治療が必要な病気が関係している場合もあります。

■検査所見

血液検査では、PCV(血球容積比)が34%と貧血が認められました。それ以外に大きな異常は見られませんでした。

貧血の原因を詳しく調べるため、胸部X線検査、腹部超音波検査、尿検査、便検査を追加しました。その結果、腹部超音波検査で脾臓に大きな腫瘤が見つかりました。その他の検査では、明らかな異常は認められませんでした。

写真:腹部エコー検査所見。腹腔内に大型の腫瘤が認められた。位置から脾臓の腫瘤であることが疑われる。

さらに、腫瘤の発生部位や周囲の臓器との位置関係、原因を詳しく確認するため、CT検査と細胞診検査を実施しました。

CT検査では、脾臓の頭部から体部にかけて約6cmの腫瘤が認められました。腫瘤の辺縁は比較的滑らかでしたが、内部には不均一な低吸収域が見られました。近隣のリンパ節に明らかな腫大はありませんでした。

写真:CT検査所見。脾臓の一部が拡大していることが明らかとなった。幸い他の臓器への波及は認められなかった。

細胞診検査では、明らかな腫瘍性増殖を示す所見はなく、結節性過形成などの良性病変が疑われました。ただし、細胞診だけでは腫瘤全体の性質を確定できないため、診断には慎重な判断が必要です。

写真:細胞診検査所見。多数の赤血球と共に大小様々な独立円形細胞が観察される。高度な異形成は認められないが、確定診断には組織検査が必要と考えられる。

■診断

検査結果から、脾臓に発生した大型腫瘤が確認され、貧血との関連が疑われました。細胞診では良性病変が示唆されましたが、悪性腫瘍を完全に否定することはできませんでした。

脾臓の腫瘤は、見た目や画像所見が良性らしくても、病理組織検査で初めて確定診断に至ります。そのため、画像検査と細胞診の結果だけで経過観察が安全と判断するのではなく、腫瘤の大きさや状態、全身への影響、今後のリスクを総合的に評価しました。

■治療方針

飼い主様が特に心配されていたのは、15歳という年齢で麻酔や手術に耐えられるかという点でした。高齢であることは周術期のリスクを考えるうえで重要ですが、年齢だけで手術の可否が決まるわけではありません。全身状態や併存疾患、手術によって得られる利益を個別に評価する必要があります。

今回の症例では、腫瘤がさらに増大した場合、出血などの合併症が生じたり、手術の難度や身体への負担が増したりする可能性も考慮しました。飼い主様と十分に相談したうえで、脾臓の腫瘤を外科的に摘出する方針となりました。

今回の重要な臨床判断は、15歳だから手術を避けると一律に考えるのではなく、現時点の全身状態と、将来的に病変が進行した場合のリスクを比較して治療を選択したことです。

■手術内容

高齢であることを踏まえ、麻酔中の身体への負担をできるだけ抑え、出血を最小限にし短時間で手術を終えることを目標としました。

手術では超音波メスを使用し、脾臓の血管などの処理にかかる時間を短縮できるよう工夫しました。その結果、手術開始から25分後に腫瘤を含む脾臓の摘出と縫合までを終え、さらに3分後には麻酔からの覚醒を確認できました。

写真:手術中所見。脾臓に大型の腫瘤が認められる。慎重に摘出を実施した。

写真:摘出した脾臓。球状に腫大している部分が腫瘤。

なお、手術時間が短いことだけで麻酔の安全性が保証されるわけではありません。術前評価や麻酔管理を含め、動物の状態に応じて周術期のリスクを抑えることも重要になります。

■経過

術後の回復は良好で、翌日には食事をしっかりと取ることができるようになり、元気に歩いて退院しました。

後日、摘出した腫瘤の病理組織検査の結果が出て、結節性過形成と診断され、悪性腫瘍ではないことが確認されました。

写真:病理組織検査所見。髄外造血の亢進による腫瘤であり、悪性所見は認められなかった。

退院後は元気や食欲が改善し、体重も増加しました。以前より活動的になり、飼い主様にも良好な変化を実感していただけました。

■考察

犬の脾臓にできる腫瘤には、結節性過形成や血腫などの非腫瘍性病変と、血管肉腫などの悪性腫瘍があります。249頭の犬を対象とした後ろ向き研究では、病理組織検査で脾臓の腫瘤と診断された症例のうち、117頭(47%)が非悪性病変、132頭(53%)が悪性病変でした。ただし、この数字は病理検査を受けた症例群の結果であり、健康診断で偶然見つかったすべての脾臓の腫瘤に、そのまま当てはめられるものではありません[1]。

また、CT検査は腫瘤の位置、内部構造、周辺臓器との関係を把握し、手術計画を立てるうえで役立ちます。一方で、画像所見だけで良性・悪性を確実に区別できるわけではありません[2]。今回も、CT検査で腫瘤の形態や周囲のリンパ節を評価し、細胞診で良性病変を疑う所見を得ましたが、確定診断には摘出後の病理組織検査が必要でした。

高齢犬の手術では、年齢のみで判断するのではなく、全身状態、検査結果、病変の大きさや性状、治療を先送りした場合のリスクを踏まえ、個々の患者さんに適した治療方針を検討することが大切です。今回の症例では、飼い主様の希望をふまえ手術時間を短縮する工夫を行い、良好な回復と確定診断につなげることができました。

写真:抜糸の際の身体検査でいつも通りの元気な姿が見られました!

横浜旭どうぶつ医療センターでは、年齢や病状に合わせて検査・治療計画を立て、安全性と治療目的の両立を目指しています。高齢だからと治療を諦める前に、まずはご相談ください。

■参考文献

  1. Eberle N, von Babo V, Nolte I, Baumgärtner W, Betz D. Splenic masses in dogs. Part 1: Epidemiologic, clinical characteristics as well as histopathologic diagnosis in 249 cases (2000–2011). Tierarztl Prax Ausg K Kleintiere Heimtiere. 2012;40(4):250-260.
  2. Kutara K, Ikenaga Y, Eto S, et al. Triple-phase helical computed tomography in dogs with solid splenic masses. J Vet Med Sci. 2017;79(11):1870-1877. doi:10.1292/jvms.17-0253.

■よくある質問【FAQ】

Q1. 犬の脾臓に腫瘤が見つかったら、必ず腫瘍ですか?

いいえ。脾臓の腫瘤には、結節性過形成や血腫などの良性病変と、血管肉腫などの悪性腫瘍があります。超音波検査やCT検査で特徴を評価できますが、画像だけでは確実に区別できない場合があり、病理組織検査が必要になることがあります。

Q2. 犬の脾臓にできた腫瘤は、血液検査で分かりますか?

血液検査だけで腫瘤の有無や種類を確定することはできません。ただし、貧血などの異常が見つかり、詳しい検査を行うきっかけになる場合があります。腹部超音波検査などを組み合わせて調べます。

Q3. 15歳の高齢犬でも、全身麻酔や手術はできますか?

高齢であっても、状態によっては手術が可能です。年齢だけで判断するのではなく、全身状態、血液検査、併存疾患、手術の必要性などを評価し、麻酔や手術のリスクと期待できる利益を比較して判断します。

Q4. 犬の脾臓の腫瘤は、症状がなくても手術が必要ですか?

すべての腫瘤で手術が必要になるわけではありません。腫瘤の大きさや形態、増大傾向、出血の可能性、全身状態などによって対応が異なります。経過観察が適切な場合もありますが、個別の評価が重要です。

Q5. 犬の脾臓の手術後は、元気や食欲が戻りますか?

回復には個体差があり、腫瘤の種類や手術前の状態によっても異なります。今回の症例では術後の回復が良好で、食欲や元気が改善しました。術後は獣医師の指示に従い、食事や活動性、傷口の状態などを確認してください。