猫のモンテジア骨折を伴う肘関節脱臼の外科的整復と長期経過

■はじめに

今回ご紹介するのは、ベランダからの落下後に左前肢が動かなくなった猫の症例です。検査で尺骨の分節骨折と複数の関節脱臼が確認され、モンテジア骨折を伴う複雑な損傷と判断しました。外科的な整復と固定を行い、術後の画像検査で治癒を確認しながら治療を進めた結果、受傷から16週間後には元気に走り回れるまで回復しました。

猫が高所から落下した場合、四肢の骨折や関節脱臼だけでなく、胸部や腹部の臓器損傷を伴うことがあります。そのため、明らかな足の異常があっても、患部だけでなく全身状態を評価することも重要です。

■来院経緯

4歳の日本猫(避妊雌)が、自宅のベランダ(約5m)から落下した後、左前肢が動かなくなったとのことで、横浜旭どうぶつ医療センターを受診しました。

落下直後の来院であり、触診では左前肢の骨折が疑われました。高所からの落下では、四肢の損傷に加えて、呼吸器や腹腔内臓器などに損傷が生じている可能性もあります。そのため、まず患肢の状態を評価するとともに、全身の外傷の有無を確認する方針としました。

■検査所見

左前肢のレントゲン検査では、尺骨の分節骨折に加え、橈骨と尺骨の脱臼および肘関節の脱臼が確認されました。

写真:レントゲン検査にて左前肢の骨折が明らかになった。

これらは単純な骨折ではなく、骨折と関節の不安定性が組み合わさった複雑な損傷でした。また、血液検査、胸部レントゲン検査、腹部超音波検査を実施しましたが、幸いにも、これらの検査で大きな異常は認められませんでした。

■診断

検査所見から、モンテジア骨折を伴う左前肢の複合損傷と診断しました。

モンテジア骨折は、一般に尺骨骨折と橈骨頭の脱臼を伴う損傷を指します。犬や猫では比較的まれであり、骨折の形態や脱臼方向によって損傷のタイプが異なります。今回の症例では、尺骨の分節骨折に加えて肘関節の脱臼も認められたため、骨折部を整えるだけでなく、関節の位置と安定性を回復させる必要がありました。

■治療方針

飼い主様と相談のうえ、当院で外科的整復を行うこととしました。

治療の目標は、尺骨の骨折部を正しい位置で固定すること、脱臼した関節を整復すること、そして術後に再脱臼や固定の破綻が起こらないよう安定性を確保することです。

モンテジア骨折では、骨折部の固定だけでなく、橈骨頭や肘関節の整復状態を維持することが重要です。過去の猫の症例報告でも、骨折の固定と関節の安定化を組み合わせた外科治療によって、良好な機能回復が得られた例が報告されています。

■手術内容

手術では、まず遠位側の尺骨骨折端からガイドとなるピンを肘頭方向へ逆行性に挿入し、その後、順行性に戻すことで骨折部のアライメントを整えました。

続いて、尺骨の骨折面に金属プレートを設置し、両端を皮質骨スクリューで固定して骨折部の安定化しました。

次に、脱臼していた関節を整復し、橈骨と尺骨の関節面および肘関節の安定性を確認しました。再脱臼を防ぐため、橈骨と尺骨の関節面を安定させるラグスクリューを設置し、関節が安定していることを確認しました。最後にガイドピンを抜去し、周囲の筋肉、関節包、皮膚を縫合して手術を終了しました。

写真:手術直後のレントゲン画像。

術後は患肢の安静と状態管理のため5日間入院し、退院後も定期的にレントゲン検査を実施しました。

動画:退院後まもなく。ぎこちなさはあるが、歩行ができる状態に回復した。

■経過

退院後は術後2週、4週の時点でレントゲン検査を行い、プレートやスクリューの位置にずれがないことを確認しました。術後8週には骨折部の骨化が確認できたため、段階的にスクリューを抜去する手術を2回に分けて実施しました。

写真:手術から4週間後のレントゲン画像。

写真:手術から8週後に骨折部を固定していたスクリュウの一部を抜去した。

写真:手術から12週後に残りのスクリュウを抜去した。

一方、プレートは治癒した骨に埋まるような状態となっていました。無理に抜去すると再骨折の危険性があると判断し、プレートは残す方針としました。

その後も経過は良好で、最初の手術から16週間後には元気に走り回れるまで回復しました。

動画:術後16週間後。いつも通り走れるように回復した。

■考察

本症例の治療のポイントは、骨折部の整復だけではなく、同時に生じていた関節脱臼を整復し、再脱臼しない安定性を確保したことです。モンテジア骨折では、尺骨骨折の整復に加えて、橈骨頭や肘関節の位置関係を回復させる必要があります。

また、落下直後の診察では、患肢の損傷に注目するだけでなく、血液検査、胸部レントゲン検査、腹部超音波検査を組み合わせて全身状態を確認することが重要です。外傷では、骨折が見つかった場合、その他の問題も発生していると考え検査することが重要になります。

固定後の状態を確認するため定期的な画像検査も重要です。骨折部の治癒や固定器具の状態を確認しながら、スクリューの抜去時期の判断を行います。今回プレートは抜去しない判断をしましたが、抜去に伴う再骨折などのリスクも考慮し、個々の症例に応じて判断します。

横浜旭どうぶつ医療センターでは、骨折や関節脱臼などの整形外科疾患に対し、損傷の状態に応じた外科治療を行っています。ただし、治療に特殊な機器が必要な疾患の場合、対応できない場合もあるため、ご心配な方は事前にご相談いただきたいと思います。

動画:ベランダにて。

■よくある質問【FAQ】

Q1.猫がベランダや高い場所から落ちたら、元気でも病院に行くべきですか?

はい。落下後は骨折や関節脱臼だけでなく、胸部や腹部の臓器に損傷や出血が起きている場合もあります。見た目に異常がなくても、早めに動物病院で診察を受けることをおすすめします。

Q2.猫のモンテジア骨折とはどのような骨折ですか?

尺骨の骨折と橈骨頭の脱臼を伴う複雑な損傷です。骨折部だけでなく関節の位置や安定性も回復させる必要があり、難度の高い外科手術が必要になります。

Q3.猫の骨折や脱臼は手術で治りますか?

損傷の部位や程度によって異なります。骨折部をプレートやスクリューなどで固定し、脱臼した関節を整復することで、良好な機能回復が期待できる場合があります。損傷の程度と部位、受傷からの経過時間によっては治療が困難な場合もあります。

Q4.骨折の手術後は、どのくらいで歩行ができるようになりますか?

骨折の種類や治癒の進み方によって異なります。術後は安静を保ち、定期的なレントゲン検査で骨の治癒と固定器具の状態を確認しながら、段階的に活動量を戻していきます。

Q5.骨折の手術で入れたプレートやスクリューは、必ず抜く必要がありますか?

必ずしもすべて抜去するわけではありません。骨の治癒状態や固定器具の位置、抜去による再骨折などのリスクを考慮して判断します。抜去する場合も、時期や方法は症例によって異なります。